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私のお父さんはね、笑うとすっごく可愛いの

私のお父さんはね、笑うとすっごく可愛いの

柔らかな日差しが差し込む午後のこと。昼間だというのにまだ起きてこようとしないところを見かねた男が小さなため息をつきながら重い腰を上げる。コツン、コツン、と白い石の上を真っ黒な靴が行く。コツン、と音が鳴る度に二人掛けのソファの上で布の擦れる音がした。


シリ、もう昼だ。いい加減起きろ」
「う―――・・・」


寝言か、うなり声か、威嚇の声か。なんでもいい。取りあえずシーツの中から引きずり出さねば、と男は白いシーツにその細く長い指を絡ませた。試しに一度軽く引いてみたところ、中にいるものはがっしりとシーツを丸め込んでしまっているようでシーツが動く気配はなかった。

力に任せて無理矢理にひっぺがしてもよいのだが、それをしたらシーツが破れかねない。男は「はぁ・・・」と息を吐き出し一度天井を見上げた後、再び丸まっている固まりを見つめた。意を決するように体に力を入れてその固まりを大きな手の平でガッシリと掴む。おそらく、ここが頭だろう・・・と。


「っ、いただだだだ!!!い、痛い!!痛い!!」


それでも尚シーツの中から出てこようとしないそれに良いことを思いついたと言わんばかりにニヤリと口元を歪めた男が固まりの下に両腕を差し込んだ。わっ!?、と抵抗する間もなく、あっという間に宙に浮いた体。ようやく、ついにシーツの中からお目当ての少女が顔を出した。


「みほーく!!!!」


少女は目をまん丸に見開いた後、その目をつり目にして未だ体を持ち上げている男を見た。


「ようやくお目覚めか?」
「・・・・・・別にいいでしょー」

「昨日は何時に寝た・・・?」


ふてくされて頬を膨らましていた少女がピタリと体を止める。呼吸まで止まってしまっていた。その反応が心底面白かったミホークだったが、そこは敢えて無表情で通すことにした。


「別に何時だっていいじゃんか、私の勝手だもん・・・」
「またアイツと遊んでいたのか?」
「・・・・・・アイツじゃないもん。ペローナちゃんだもん」


まったく、と小言を漏らしたちょうどそのとき。ふわぁと大あくびをしながら、2人のいるダイニングに入ってきたピンクの髪の女の子。それを見た少女が嬉しそうにその女の子の名を呼んだ。


「ペローナちゃん、おはよー!!」
「ん、あぁ。シリおはよう。昨日は楽しかったか~?」
「うん、楽しかった!!またや、ろ・・・・・・」


ジロリといぬくような視線に言葉が詰まる。そんな2人の様子を見たペローナからはため息が吐き出された。


「おい鷹の目!シリに何してんだよ。シリはまだ5歳なんだぞ?もっと優しく扱ってやれよ。っていうか、女の子なんだから、持ち上げて振り回すなよ!」
「・・・・・・ふん、ゴースト娘には関係のない話だ。これは俺とシリの話。父と娘の話だ。入ってくるな。面倒だ」
「っ、はぁ~~~~????何が父と娘だ!!拾ってきたのはあの方向音痴な剣豪馬鹿だろ?それを言うならアイツが父だろ!!」
「え~!?私のお父さんってみほーくじゃないの?」
「っ、いや。俺だ。ゴースト娘は黙っていろ」
「ちょっと待て、それは・・・!!」


ミホークの言葉に待ったをかけようとペローナが声を上げたその時だった。肩にタオルをかけてホカホカと湯気を立ち上らせている緑色の頭の男がダイニングに入ってくる。心底面倒だというように顔を歪めていた。


「あぁ、もううるせぇなぁ。何やってんだお前ら・・・」
「ゾロ~、おはよー!!」


その言葉に「はぁ?」と声を出したゾロが部屋に置かれていた時計を確認して再度シリの方を見て言う。


「おはようじゃねぇよ、シリ。もう昼だぞ。お前また夜更かししたのか?」
「う、うん・・・」
「楽しいのはいいが、ほどほどにしないと、体壊すぞ?」
「・・・・・・そうなの?・・・分かった!じゃあ、次からは気をつける!!」


ならいい、と冷蔵庫に向かって歩き出すゾロとその後ろ姿をにまにまと見つめるシリ。そしてさらにその2人を交互に見つめるミホークとペローナ。ミホークと視線が交わるとペローナがふん、と胸を張りながら言った。


「ほらな!ロロノアの方が父親っぽいだろ?」


無言でペローナを睨みつけるミホーク。少し離れたところでその話を聞いていたゾロが水を拭きだして言った。


「ぶっ!?はぁっ!?・・・なんで俺が父親?」


訳分かんねぇよ!とゾロがそう言うと、シリが「ゾロパパ~~!!」と声を上げる。ピシリ、と凍り付いた空気。さすがのペローナもそれには肩を竦めた。だがその空気もシリには理解できないもので一人にこにここと笑っている。未だミホークの手によって宙に浮いたままだったシリの体がようやく地の上に降ろされた。


「みほーく?」


ようやく異変に気がついたシリが大きく首を逸らしてミホークの顔を見上げる。


「・・・・・・ロロノア、表に出ろ」


低く冷たい声が部屋に響いた。


「ちょ、ちょっと待て。一体何の話をしてんだよ!!」


慌てふためくゾロに対して、わりぃと拝むように片手を上げたペローナがその場を逃げるようにして部屋から出ていく。「おまえっ!!」とその後を追いかけていくゾロ。風呂から出たばかりだっていうのに、と文句を言いつつも手早く服を着て稽古の準備をして稽古場へと駆け足で向かった。

そんな2人を無言で見つめていたミホークがようやく動き出す。夜を背負い、ゾロとペローナの後に続いて外へ出ていく。その後ろにシリが続く。翻る漆黒のコート。ひらりひらりと動くそれを小さな手が追いかけてようやく掴んだ。クィと引っ張る小さな力を感じて足を止めたミホークがわずかに顔を後ろに向けた。


「みほーく、私のこと、嫌い?」
「・・・・・・どうしてそうなる?」

「だって、なんか怖い顔してる」
「・・・これは、・・・・・・気にするな。お前は関係のないことだ」
「・・・うん」


きゅ、とコートを握り締める小さな手に力が入る。それを見届けたミホークがフッと口元を緩ませてゆっくりとした動作で振り返り、身を屈めた。「ん?」と潤んだ瞳で首を傾げる少女に向かって言う。


「今日は何がしたい?ロロノアの稽古が終わったら俺が付き合おう」
「え!いいの!?」
「あぁ」
「やったーー!!」


クスリ、と笑みを漏らすと、さぁ手を挙げろとクイッと顎を動かすミホーク。それを見てにんまりと口元を緩めた少女が「ん、」と両手を上げた。小さな体はやすやすと持ち上げられ、細くしなやかな腕の中にすっぽりと収まる。


「今日のミホークはね」
「・・・なんだ」
「なんかね、お父さんみたい」
「・・・・・・何を言う、今更」


俺はお前の父親だろう?そう言って上機嫌に笑うミホークの頬に少女は大好きっと口づけるのだった。


(!?)
(みほーく?)
(待て、それを誰に教わった?)
(それ?・・・それって???)

(そこの二人、止まれ)
(なんだよ、鷹の目)
(ん、だよ)

(シリに余計なことを教えたのはどっちだ)
((は?))


その後の稽古が長引いたのは言うまでもない。

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